おじさん Product Manager サバイバルガイド (ShanonAdventCalendar2016・6日目)

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はじめまして。シャノンでプロダクトマネージャーをやっております、gacky です。

この記事は、SHANON Advent Calendar 2016の6日目と Product Manager Advent Calendar 2016 の6日目を兼ねた記事です。

実は、この記事を執筆している段階で、まだ入社4ヶ月目という状態です。しかし、ネット業界での職歴は20年近くにわたり、そのうち10年以上はプロダクトマネージャーっぽい仕事をしてきました。あの「ビットバレー」の中心で、ネットバブルの盛り上がりと崩壊を現場で体験したナナロク世代 (死語?) です。

さて、ここ1~2年くらいの間に、日本でもプロダクトマネージャーという職種がクローズアップされるようになり、コミュニティの活動も盛り上がりを見せています。2016年10月には、Japan Product Manager Conference という国内初のカンファレンスも開催され、シャノンもスポンサーとして協賛させていただきました。
しかし、プロダクトマネージャーという職種は仕事内容の定義が非常に曖昧で、仕事内容も多岐に渡ります。身につけるべき知識やスキルも多く、絶えずアップデートしていく必要があるうえ、肉体的にも精神的にもストレスの多い仕事です。

この2016年、日本のネット業界を牽引してきたナナロク世代は、ちょうど40歳を迎えました。
同世代のかつての戦友は、経営者や役員になったり、ベンチャーキャピタルで投資側に回ったりしていることもありますが、現役でプロダクト開発に取り組んでいる連中もまだまだ存在します。やっぱり現場が好きなのでしょうか? それとも単なるマゾなのでしょうか?
しかし、アラフォーのおじさんがプロダクトマネージャーの仕事をこなすのは、それなりに大変なことです。そこで、自らの心と体に鞭を入れながら、成長著しい若手に負けないような成果を出し、プロダクトマネージャーとして生き残っていくための策を考えてみたいと思います。

シャノンのプロダクトマネージャーは、おじさん比率高めです。
社内用の Slack のチャネル名は "kikaku-ojisans" です。
他に「Perlおじさん」もいるとかいないとか...。

プロダクトマネージャー(PM)とは何ぞや?

その定義は人や組織によって様々ですが、個人的には「製品を考え、作り、届けるまでの全プロセスの司令塔」であると解釈しています。言い換えれば「製品の看板を背負う人」であり、社内では「(製品名)の○○さん」と呼ばれる役割です。私もシャノンにおいて、SHANON MARKETING PLATFORM のいくつかの機能の開発指揮を執っています。
プロダクトマネージャーは、社内にとどまらず、対外的にも「製品の顔」として登場することがあります。例えば Google I/O のような開発者向けのイベントでは、役員に加え、プロダクトマネージャーが壇上に立って製品を語っていることがあります。

私はもともと、Webディレクターっぽい仕事からプロダクトマネージャーの領域に足を踏み入れていきました。コードは読めても書けませんので、厳密にはエンジニアではありません。デザイナーでもなく、プロジェクトマネージャーでもなく、営業でもなく、マーケティングでもない。「お前はいったい何屋か?」と言われたときに返答に窮する状態で、深刻なアイデンティティ危機に陥った頃もありました。これまで数回の転職を経験していますが、プロダクトマネージャーという職種がなかった (&自分も知らなかった) ので、仕事探しには本当に苦労しました。
しかし、最近になって急速にプロダクトマネージャーという職種が認知されるようになり、「あぁ、自分はプロダクトマネージャーだったのか」と、自分で自分の仕事を「再発見」することができました。実際、日本でプロダクトマネージャーを名乗っている方の多くは、こうやって自分を「再発見」された方も多いのではないでしょうか。
(以前からプロダクトマネージャー制度が根付いている外資系IT企業のような例外もありそうですが)

プロダクトマネージャーという職種は、現在のシャノンのように専門職種として独立していることもあれば、他の職種がその機能を兼ねていることもあります。例えば、スタートアップであればCEOがプロダクトマネージャーでしょうし、 製品開発チームがエンジニアとデザイナーだけで構成されていれば、どちらかがプロダクトマネージャー役を兼ねているといえるでしょう。
これまでは、「お前がプロダクトマネジメントをやれ」と命じられることはほとんどなかったでしょうから、現場で無意識に、自発的にプロダクトマネジメントの機能を担っていた人物が、結果的にプロダクトマネージャーになっていくケースが多いような気がします。営業・マーケ出身の人物よりも、もともとプロダクトに直接関わっているエンジニア・デザイナー出身の人物がプロダクトマネージャー職に就くことが多いのも、そんな実情が反映された結果のように思われます。

とはいえ、プロダクトマネージャーの仕事領域に、明確な定義があるわけではありません。Japan Product Manager Conference に出席してみても、プロダクトマネージャーの定義は各社でかなり異なっていて、業界での共通認識が形成されているわけではない、という印象を受けました。
とはいえ、「そういうまとめ役とか司令塔が必要だよね」という認識は広まりつつあって、各社がいろいろ試行錯誤しているというのが現状、といえそうです。そして、「プロダクトマネージャー」という職種での求人も、だんだん増えているように感じます。

アラフォーの日々は、結構しんどい

私がプロダクトマネージャーっぽい仕事を担うようになったのは、20代後半からです。そこから30代前半までは、目の前に積み上がった大量の仕事をひたすらこなしていました。会社の急成長に合わせて、製品のロードマップを立て、仕様を策定し、エンジニアと開発スケジュールを協議して、サービスを投入する。これを超高速で繰り返してきました。質よりも量が重要な時期ゆえ、大量の資料を作り、大量のミーティングをこなす日々。勤務時間はどんどん長くなっていきます。それでも、製品がどんどん生み出されていくので、手ごたえや充実感はありました。当時は毎日数百万人が利用するサービスを作り上げ、維持していることに、誇りを感じていました。
ところが、結婚を経て、子供が生まれたあたりから生活が激変します。共働きの環境では、育児や家事にかなりの時間を奪われます。子供が突然病気にかかることもしばしばで、圧倒的に時間が足りなくなります。投下時間にモノを言わせた仕事のしかたが通用しなくなり、勉強会への出席や情報収集など、自己研鑽にかける時間が確保しにくくなります。
そこに、30代後半から始まる体力の低下が追い討ちをかけます。睡眠時間を削って時間を捻出するのが難しくなってきます。20代の頃は平気だった徹夜も、30代後半になるとかなり厳しくなります。筋力の落ちた腕で子供を抱え、保育園に連れて行く日々。通勤だけでも一苦労です。
そして、40歳を過ぎると突然襲い掛かってくる「四十肩」。マジで痛いです。しかも、痛みがなかなか収まらない。

さて、PMJP の忘年会に顔を出すことさえできない、そんな満身創痍のアラフォーPMは、果たして若手PMに伍して戦っていけるのでしょうか?

アラフォーおじさんPMの戦い方を考える

若手PM は、時間や体力に余裕があり、モダンな技術にも明るいわけですから、おじさんPMは真っ向勝負してはいけません。
ここはひとつ、ナナロク世代の貫禄 (?) を見せられるような戦い方をすべきでしょう。
いくつかのアイデアを提示してみたいと思います。
  • 回転数よりトルクで勝負する
  • B to C より B to B で勝負する
  • SoE より SoR で勝負する
  • 人脈やヒューマンスキルで勝負する
  • 個人よりチームで勝負する


回転数よりトルクで勝負する

自動車やバイクのエンジンにたとえてみましょう。排気量の小さなエンジンはトルクが細いので、パワーを稼ぐには回転数を上げなくてはいけません。一方で、排気量の大きなエンジンはトルクが太いので、低い回転数でもパワーを得ることができます。大きくて重い車が、少しアクセルを踏んだだけで軽く走り出すのは、大排気量エンジンの太いトルクのおかげです。

かけた時間や作ったドキュメントの量で勝負するやり方は、小さなエンジンを高回転でブン回すのによく似ています。回転数を上げればパワーも上がりますが、次第にエンジンは悲鳴を上げ、最後は壊れてしまいます。
20代であれば、時間や体力にまだ余裕があるので、高回転を維持することも可能ですが、アラフォー世代ともなると身体や家庭を壊してしまいます。大排気量エンジンのような太いトルクで勝負したいところです。

とはいえ、プロダクトマネージャーが「太いトルク」を獲得するのは、なかなか容易なことではありません。
まさにエンジンの燃焼サイクルのごとく「短時間で大量のインプットを取り込んで圧縮」し、「短時間で大きなアウトプットを爆発」させる必要があります。
これを実現するための決定打はなく、様々なスキルを愚直に積み重ねていく必要があると思うのですが、過去の経験上、「手戻りを防ぐスキル」と「効率的な意思決定のスキル」が極めて重要だと感じています。例えば、ドキュメントの書き方を変えるだけでも、勘違いによる手戻りは大幅に減らすことができます。
また、後述する人脈やヒューマンスキルも、トルクを太くするのに役立ちます。

一方で、若いうちはできるだけ回転数を上げ、無理のない範囲で自分をブン回しておいたほうがよいと思います。
自分の限界を知る意味でも、20代のうちに「11,000回転まできっちり回せ!」。アラフォーになったら絶対無理なので。

B to C より B to B で勝負する

特にネット業界においては、華やかな B to C のサービスに注目が集まりがちですが、ベテランはもっと B to B に目を向けてみることをオススメします。
私もこれまではずっと B to C のネットサービスの仕事を続けてきましたが、正直言って戦い疲れました(笑)。猛スピードで突っ走っているときの疾走感には、何物にも代え難い魅力がありますが、やっぱりアラフォーの身には結構こたえます。

コンシューマー向けのネットサービス (特にスマートフォンアプリ関連や SNS 周り) の動向、UI のトレンドなどを追いかけるのは本当に大変ですし、それに適応するための企画・開発には膨大な労力を消耗します。その割に、費やした労力に見合っただけのリターンが得られる確証はありません。一方で、B to B 市場には、製品を通して本質的な課題解決に取り組める余地があちこちに残されています。決して B to B 市場が楽というわけではありませんし、成功の確証があるわけではありませんが、ぜひ B to B のサービスにも目を向けていただきたいです。

SoE より SoR で勝負する

最近話題の SoE と SoR の分類で考えてみましょう。
販促・マーケティング系システムのように、顧客接点を形成するためのシステムは、SoE (Systems of Engagement) と呼ばれます。こうしたシステムの開発では、機動性やユーザーの使い勝手が重視され、高頻度での修正・改善が求められることが多いです。
しかし、すべてのネットサービスは SoE ばかりとは限りません。業務システムなど、情報を正しく記録するためのシステムは SoR (Systems of Record) と呼ばれ、品質や信頼性が重視されます。一方で、高頻度の修正や改善は望まれないこともあります。
(SoE と SoR の分類と解釈に関しては、こちらの講演スライドが大変分かりやすいのでオススメ)

どちらが優れているというわけではなく、実際には 1 つのサービスにおいても SoE 的なシステムと SoR 的なシステムが混在することがほとんどなのではないかと思います。実際に、シャノンの SHANON MARKETING PLATFORM も、SoE としての側面と SoR としての側面を併せ持っており、それぞれ開発のアプローチは異なっています。

機動力が必要な SoE は若手PMに委ねて、品質や安定性、オペレーションに関する広範な知識が求められる SoR で、ベテランの底力を発揮するというのも悪くない戦い方だと思います。

人脈やヒューマンスキルで勝負する

プロダクトマネージャーの仕事の中で、何より大切なのはヒューマンスキルです。プロダクトマネージャーの仕事は、人と人の間を取り持つことばかりですから、コミュニケーションや意思決定の円滑化が生産性向上に直結します。

例えば、Google の調べによると、チームの成功を大きく左右するのは「心理的安全性」だということが分かっています。メンバーが発言しやすい雰囲気を作り、周囲が共感・理解しようとする姿勢を見せることが、結果的にチームの生産性に貢献しているのだそうです。
社内外の人脈や、ヒューマンスキルは、一朝一夕には身につかないものです。ベテランが差別化できる、数少ないポイントだと思います。

個人よりチームで勝負する

複数人のプロダクトマネージャーでチームを組むような場合、1人のパフォーマンスだけを高めるのではなく、全員のパフォーマンスを引き上げることで、チーム全体の生産性を向上させることができます。これは、エンジンの気筒数を増やすのと同じです。

しかし、多気筒エンジンは、気筒間できっちり同調を取らないと、互いの力を打ち消し合い、本来のパワーが出せなくなってしまいます。PMチームもこれと同じで、チーム内で足を引っ張り合うことなく、きれいにパフォーマンスを出せるような工夫をしていく必要があります。
最近のエンジンでは、コンピューターがタイミングを厳密に制御しているので、同調がずれることはほぼありませんが、人間同士の場合はそうもいきません。

そして、若手PMに仕事を委ね、成長を促していくことも、「チームで勝負する」ことの一部といえるでしょう。PMの業務の定義が各社バラバラである以上、PMの教育においても「これが答えだ!」という決定打はありません。若手PMの得意分野を活かしつつも、地道にベテランの背中を見せていくしかないのだと思います。


おっと、最後に大切なことを書き忘れました。

健康の維持に努める

アラフォーPMの皆様の中には、若い頃に仕事で無理をされた方も多いのではないかと思います。
もともとPMという仕事は、肉体的にも精神的にも消耗しやすい仕事です。社内で嫌われることも多く、ストレスも溜まりがちです。

20代は、特に意識しなくても健康を維持できることも多いですが、30代後半から40代ともなれば、そこそこ大きな病気を患うケースも出てきます。若手に引きずられて消耗してはいけません。体を動かしたり、気分転換をするようにして、意識的に健康の維持に努めましょう。忙しくても、健康診断の受診はお忘れなく!



これからも、おじさんPMらしい戦い方を模索していこうと思います。
同世代の皆さん、一緒に頑張りましょう。

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